大判例

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神戸地方裁判所 昭和26年(ワ)518号 判決

原告 岡熈

被告 谷山聖天

一、主  文

被告は原告に対し神戸市長田区若松町八丁目七番地の一(長田区第四工区十六ブロツク換地予定指定地)宅地百八十一坪六合九勺(別紙<省略>附図(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(テ)(ト)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ線内)のうち三十坪五合八勺(別紙附図(イ)(ろ)(ほ)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ線内)をその地上に在る別紙目録記載の工作物を収去して明渡さなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は原告において金一万五千円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「原告は昭和二十三年九月八日以来、神戸市長田区若松町八丁目七番地の一宅地二百四十一坪四合二勺を所有していたが、同二十五年十二月二十二日、特別都市計画法に基く土地区劃整理のため同地番(長田区第四工区十六ブロツク換地予定地)の宅地百八十一坪六合九勺(別紙附図(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(テ)(ト)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ線内)を、その換地予定地として指定を受けた。ところが、被告は何等正当の権限がないのにかゝわらず、該宅地のうち三十坪五合八勺(別紙附図(イ)(ろ)(ほ)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ線内)上に、別紙目録記載の工作物を建造所有していて、原告の使用収益を妨害している。よつてこゝに原告は被告に対し、右工作物を収去してその敷地部分の明渡を求めるため、本訴に及んだ。」と述べ、

被告の主張事実を否認して、訴外加藤博久は、原告の従前の土地である宅地二百四十一坪四合二勺の一部に賃借権を有し、従つて、該土地の換地予定地の一部につき右賃借権の内容たる使用収益をなし得たが、昭和二十八年十二月三十日、原告は従前の土地から六十三坪四合二勺(換地予定地では四十七坪六合七勺)を分割し、これを加藤に贈与して同人の前記賃借権を抛棄する旨話合ができた。そして、同二十九年一月七日原告は右のとおり分割し、同月十一日その旨の登記及び加藤のための所有権移転登記をなしたので、加藤は現在本件換地予定地の上に何等の権利も有していないと附陳した。<立証省略>

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張事実のち、被告が原告のような工作物を所有していることは認めるが、其の余の事実はすべて争ふ。すなわち、

一、被告は昭和二十六年四月十日、訴外上野善雄から前記工作物を金十二万円にて買受け、同月十三日右工作物の敷地を含む土地五十八坪を、その所有者たる訴外加藤博久より賃料一ケ月五百八十円と定めて、建物所有の目的で賃借したが、この土地は神戸市長田区若松町八丁目八番地に在り、従つて、被告は原告の主張する同町八丁目七番地の一の土地に何の関係も有しない。

二、仮りに、被告の使用する土地が、原告主張の換地予定指定地であるとしても、該土地の使用権者である被告に対し、特別都市計画法所定の、その旨の通知がなされない以上、被告は依然としてこの土地につき、前記賃借権の内容たる使用収益権能を喪失していない。

三、また、原告の従前の土地のうち約百八十坪については、原告の所有権取得以前に、訴外加藤博久が賃借権を有していたが、やがてこの賃借権は訴外上野善雄を経て被告に譲渡された。しかして、これら譲渡は夫々当時の所有者の承諾を得ているから、その後新に所有権を取得した原告には対抗し得る筋合であり、この土地につき原告が、その主張のような換地予定地の指定を受けたとしても、被告の有する賃借権は換地予定地に随伴し、原告はかような借地権を負担した状態に於て、右予定地の使用収益をなし得るに過ぎない。従つて、被告の現に占有している土地三十坪五合八勺も、原告においてその使用収益を認容すべき関係にある。

四、以上の主張がすべて認められないとしても、本訴請求はなお失当である。なんとなれば、原告は従前の土地を未だ全面的に使用していながら、本件土地に換地予定地の指定を受けたとして、直にこれを使用収益しようとする。しかしながら、被告は前述のように、本件土地に替つて使用すべき予定地の通知すらなく、こゝを追われては行くべき宛先もないばかりか、この土地は被告がその職業(襤褸の問屋)を営む上から絶対に必要であり、これを喪えば忽ち生活の破綻を生ずる。従つて、原告が従前の土地を実際に使用できなくなり、必然の要求として本件土地の使用収益を欲するならば格別、右のような事情に在りながら敢て被告に対し、即刻立退きを求めるのは苛酷に過ぎる。とりわけ、特別都市計画法の施行区域が広汎に及ぶため、かゝる事例が一般に数多存在するであらうことを考慮すれば、関係者一同が各々移転の可能性を有するに至つたとき初めて原告主張のごとき権利の行使されるのが妥当であり、然らざる限りその行使は公共の福祉に反すると云うべきだからである。

よつて、何れにしても原告の本訴請求に応じ難い。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第一、二号証、神戸市長田区第四工区十六ブロツクの換地予定地指定図であることに争のない同第三号証、被告所有の工作物を示す写真であることに争のない同第四号証の一乃至四、証人石田実、加藤博久(第一、二回)の各証言並に原告本人の供述及び検証の結果を綜合すれば、原告はその主張の如く、昭和二十三年九月八日以来、神戸市長田区若松町八丁目七番地の一宅地二百四十一坪四合二勺を所有していたところ、同二十五年十二月二十二日特別都市計画法に基く土地区劃整理のため、同地番(長田区第四工区十六ブロツク換地予定指定地)の宅地百八十一坪六合九勺(別紙附図(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(テ)(ト)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ線内)を、その換地予定地として指定を受けたこと、しかして、右換地予定地のうち三十坪五合八勺(別紙附図(イ)(ろ)(ほ)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ線内)には、原告の主張するような被告所有の工作物(被告の所有に係る点は当事者間に争がない)が存在して、該宅地を被告が占有していることが認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、自己の占有する土地が、原告のために指定された本件換地予定地とは何等の関係も有しないとの被告の主張が理由のないことは、自ら明白である。

次に、証人加藤博久の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第三号証及び証人加藤博久の証言(第一回の一部と第二回)に徴すれば、被告は昭和二十六年五月頃、訴外上野善雄より同人が訴外加藤博久所有の宅地五十八坪に対して有する賃借権の譲渡を受けて右加藤の承諾を得た結果、該宅地を賃料一ケ月五百八十円、建物所有の目的で賃借するに至つたこと、そして、この宅地の一部が、既に原告のために指定された本件換地予定地のうち、前段認定の別紙附図(イ)(ろ)(ほ)(ヘ)(イ)の各点を順次結ぶ線内に該ることが認められる。証人加藤博久の証言(第一回)中、右認定に反する部分は、他の証拠に照してみて真実を伝えるものとは認め難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、特別都市計画法第十三条、第十四条によると、行政庁が土地区劃整理のため換地予定地を指定したときは、換地予定地及び従前の土地の所有者にその旨を通知し、且つこれらの土地の全部又は一部について賃借権などを有する者があるときは、これら関係者にもその旨の通知がなされる。そして、右通知を受けた土地所有者及び関係者は、通知を受けた日の翌日から換地処分が効力を生ずるまで、換地予定地について従前の土地に存する権利の内容たる使用収益をなすことができる反面、従前の土地についてはその使用収益権能を失ふ。すなわち、公法上の権利なき使用収益権、権利ある使用収益の禁止となる。従つて、所有権、借地権等の権利関係は依然として従前の土地に存するから、従前の土地はなお借地権取得の対象となり得るが、この場合、取得に伴ふ使用収益権能のみは換地予定地の上に移行する。してみると、前述の通り被告が本件換地予定地の一部を、その予定地指定後に於て訴外加藤より賃借したのは賃借権の取得自体は法律上無意義でないけれども、右権利の内容たる使用収益権能は、加藤が該土地のために指定を受けた換地予定地に移行さるべきであり、若早被告は、本件換地予定地は使用し得ないものと云わねばならない。のみならず、前述のような行政庁の通知は、換地予定地を指定した当時の所有者並に関係者に限られると解されるから、被告に対してかゝる通知がなされないことは当然であり、通知のないことを前提とする被告の抗弁は、その余の判断を俟つまでもなく採用に値しない。

さらに、被告の三の主張について考えてみるのに、訴外加藤博久が原告の従前の土地の一部に賃借権を有していたことは、原告の自ら認めるところであるが、右賃借権が加藤から訴外上野善雄を経て被告に譲渡された事実はこれを肯認するに足る証拠がない。すなわち乙第一ないし第四号証は加藤博久が所有し上野善雄に賃貸していた土地(これが現に原告に与えられる換地予定地の一部として指定されている本件係争地である)に関するもので、該土地を従前の土地とする換地予定地は他に指定されているのであり、本件係争地を換地予定地とする従前の土地で加藤博久が原告から賃借している土地には何の関係もないことは証人加藤博久の証言(第一、二回)により明白であるから、これ等書証は右被告主張事実認定の資料とならない。のみならず却て、同証人の証言(第二回)によれば、加藤は今なお原告に対し、右権利に基いて、自分自身のために本件換地予定地の一部を使用収益せしめるよう求めている(約四十九坪は既に使用中)ことが認められる。従つて、被告のこの点に関する抗弁も亦理由がない。

進んで、被告は原告の請求が公共の福祉に背反すると主張するが原告が従前の土地につき、現在依然としてこれを全面的に使用収益しているとの事実に関して、何等の立証もない以上、爾余の点を審案するまでもなく、結局この抗弁も排斥するの他はない。

以上の説示により明らかなように、被告の主張はすべて失当であり、しかして、前叙の如き公法上の使用収益権はその属性として、自らの権利行使の妨害に対し、排除を要求する力を有していると解されるから、原告が自己のために指定された本件換地予定地に関してなす本訴請求は、これを正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 大野千里 中田四郎)

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